Q: オゾンとはどのような物質ですか。どんな性質がありますか?
A: オゾンは分子式がO3(分子量は48)で表されるように、3個の酸素原子が化学結合したもので、酸素(O2)の同素体です。1840年にドイツの化学者C.F. Shenbein(1840)によって発見されました。彼は水の電気分解や電気火花にともなって生じる特有の“臭い”がそれまで知られていない新物質によるとして、ギリシャ語のOzein“臭う”という意味の“Ozone”と名付けました。そして、1857年にはW.V.Siemensがこの電気火花(放電)を応用したオゾン発生器を開発したことから、オゾンの工業的な応用が始まりました。
オゾンの分子構造は図のような二つの極限構造式からなる共鳴混成体で表されます。二つのO-O結合は等価で、その結合距離は12.78 nm、結合角は116.8°の折れ線型極性構造をしています。このような構造のため、オゾンの水への溶解度(0.77 g/L、20℃)は酸素の約15倍です。オゾンは常温常圧では淡いブルーの気体として存在し、沸点や融点が酸素よりも高い(沸点はO3が-112℃、O2が-183℃。融点はO3が-193℃、O2が-219℃)のも、その分子構造から合理的に説明できます。
しかし、なんといっても、オゾンの最大の特徴は酸化力が強いことです。酸化力の目安である標準酸化還元電位(E0)が最も高いのはフッ素(F2、2.87 V)ですが、オゾンのE0は2.07Vと、フッ素に次いで高く、塩素(Cl2)の1.36Vを大きく上回っています。この強い酸化力のゆえに、オゾンはほとんどの有機化合物を酸化分解することができますし、細菌やウイルスをも分解して、抗菌、抗ウイルス作用を発揮します。このような利点を生かして、オゾンは殺菌消毒薬として、あるいは脱臭や脱色などに広く利用されています。ただし、オゾンは水中では数秒から数十分、空気中でも数時間で分解して酸素にもどる不安定な物質であります。オゾン反応物質(有機物)が多い場合は、上記の時間よりも早く反応で消費されるし、清浄度の高い空間ではこれよりも長くオゾンで留まることもあります。そのため、オゾン発生器を用いてオンサイトで製造してオゾンを使用するのが一般的です。
参考:日本医療・環境オゾン研究会、環境分野におけるオゾン利用の実際、医療オゾン研究、増刊3号(2007)
Q: オゾンはどのような分野で、どのような目的のために利用されているのでしょうか?
A: オゾンには、オゾンガスとしての利用とオゾン水としての利用があります。以下に示すように、オゾンはいろいろな分野で利用されていますが、優れた酸化力を有し、環境にも優しいオゾンには、まだまだ多くの利用法があるように思われます。以下に利用業種ならびに利用分野別にオゾンの利用の一部を示します。
Q: オゾンの発見や利用の歴史を教えて下さい。
A: オゾンの発見、オゾン発生器の開発およびオゾンの各種工業分野、医療分野における利用などを年表にして以下に示します。
1785 Van Marum:電気火花で妙な臭いが発生することに気付く
1801 Cruiokshank:水の電気分解の際に陽極で発生する気体がMarumによって示されたものと同じもの
であることに気付く
1840 C.F.Shönbein:その臭いが新しい物質によるものであることを示し、ギリシャ語のOZEIN(におう)
からオゾンと命名
1857 W.von Siemens:無声放電式オゾン発生管を考案
1867 Soret:オゾンが酸素の同素体であること(O3)を解明
1873 C.B.Fox:殺菌作用を発見
1874 B.G.Brodie:オゾンの分子構造を解明
1902 世界初のオゾンによる水処理施設(Wiesbaden(ドイツ))の建設
1906 Nies(フランス)浄水場:オゾン処理施設稼動開始
1915 オゾンガスの戦場における利用(破傷風の予防処置)
1915 A.Wolff:オゾンガスの医療応用(婦人科がんや直腸腫瘍のオゾン療法の可能性を発見)
1923 尾川:尾川式オゾン発生器第1号を作製
1924 日本におけるオゾン治療開始(皮下注射)
1924 G.M.B.Dobson:オゾン測定用分光計を考案
1930 S.Chapman:オゾン層の生成機構を発表
1932 歯科応用(E.A.Fisch)
1933 歯科応用(岩本)
1934 体質改善作用(脇田)
1935 E.Payr:オゾンの皮下・筋肉注射開始(ドイツ医学会において体系的なオゾン療法を発表)
~1940 日本軍によるオゾン研究(潜水艦内の脱臭・戦地での消毒・治療)
1958 J.Hänsler:医療用オゾン発生器の開発
1964 歯科領域の殺菌作用(小野内)
1972 H.Wolff:ドイツオゾン療法医学会設立
1973 第1回世界オゾン会議(IOI、ワシントン)開催
1973 尼崎市神崎浄水場オゾン処理開始
1991 日本オゾン協会発足
1994 日本医療オゾン研究会発足
1995 手指消毒用オゾン水製造装置の医療用具承認取得(コアメディカル)
オゾンガス殺菌機の医療用具承認取得(IHI)
1995 第12回世界オゾン会議(仏):ヨーロッパのオゾン医療関係者に日本医療オゾン研究会を紹介
1996 日本:オゾンガスは既存添加物名簿に製造用剤として収載(食品貯蔵、製造工程での殺菌剤)
1999 日本医療オゾン研究会の名称を日本医療・環境オゾン研究会とする。
2005 食品添加物リストに収載(FDA,食品医薬品局)
2009 第19回Ozone World Congress(世界オゾン研究発表会、東京)開催
2010 内視鏡装置承認(IHIシバウラ)
2011 日本医療・環境オゾン研究会の名称を日本医療・環境オゾン学会とする。
参考文献
1)増刊1号 医療とオゾン(1996)日本医療オゾン研究会
Q: オゾンガスやオゾン水はどのくらい保存できますか。
A: オゾンは自己分解する性質があり、分解後は安定・安全な酸素になります。オゾンガスの場合その分解速度は、オゾン濃度、不純物の存在、温度、圧力等に左右され、また、オゾン水の場合はさらにpHにも左右されます。温度が高い場合、圧力が低い場合、pHが高い(アルカリ性の)場合に分解速度が大きく(分解が早く)なります。常温、常圧では、オゾンガスは数時間から数十時間で、水に溶解しているオゾンは数分から数十分で分解します。従って、一般的にはオゾンガスやオゾン水は長期の保存が困難なため、使用したいその場での製造が求められることが多いのです。そうは言っても、保存・持ち運びが出来て必要な時に必要量を使える方が便利であり、効率的な利用が可能となります。多様な用途への活用も見込まれます。そこで、近年では様々な方法によりオゾンを貯蔵・保管する技術が見出されています。次に実用的ないくつかの事例を挙げます。
まずオゾンガスの貯蔵として、シリカゲルや多孔質ガラス、ゼオライトなどの多孔質材料にオゾンガスを低温で吸着させ、加温して取り出す技術があります。貯蔵量はオゾン供給量や吸着材の種類・物性などに左右されますが、吸着材1gあたり68mgのオゾンが貯蔵できるという報告もあります。これらの方法による貯蔵時間(安定に貯蔵できる時間)は数百時間であることが示されています。また、オゾンガスをグリセリンに溶解させることもできます。これはオゾンジェルとして利用されています。オゾン水の貯蔵としては、オゾン水を急速冷却することで氷の中へオゾンを封じ込めた状態、いわゆるオゾン氷としての貯蔵が検討されています。濃度11mg/Lのオゾン水から8mg/kgのオゾン氷を得たという報告もあります。
また、オゾンガスを、オリーブオイルやある特定の界面活性剤などと反応させて安定なオゾン化物、いわゆるオゾン化オリーブオイルやオゾン化界面活性剤を得る技術があります。これはオゾンが炭素-炭素二重結合に特異的に反応して安定なオゾニドになることを利用したものです。オリーブオイルにはオレイン酸などの不飽和脂肪酸が多量に含まれていますので、この不飽和脂肪酸とオゾンとが反応します。オゾン化界面活性剤の原料にも不飽和脂肪酸を有する界面活性剤が選ばれます。反応条件にもよりますが、オゾン量換算として1mg/g以上のものが得られており、その安定性もオゾン化オリーブオイルでは冷蔵保存で数年、オゾン化界面活性剤では1年以上の安定性が確認されています。オゾンの性能のひとつである抗菌作用も証明されており、オゾン化界面活性剤では、黄色ブドウ球菌に対する発育阻止濃度(MIC)は約0.1%、白癬菌に対するそれは約0.03%となっており、その抗菌作用について1年以上経ても有効なことが示されています。
参考文献
1)増刊3号 環境分野におけるオゾン利用の実際(2007)日本医療・環境オゾン研究会
Q: オゾン水はどんな効果を期待できますか?
A: 人体への消毒効果の観点から、既に眼科においては、眼球の消毒用に4mg/L(ppm)程度のオゾン水が臨床的に使用されています。また、歯科においても口腔内の消毒にオゾン水が利用され、止血、歯周病予防に効果をあげています。さらに、外科において、痔の手術後に患部をオゾン水で洗浄することで、痛みの緩和や消毒効果の向上による治癒時間短縮などが報告されています。いずれも、専門医の臨床段階ですが、今後の臨床における利用が期待されます。 インフルエンザの予防として、オゾン水による手洗いとうがいを励行することが大切です。一般的に、ウイルスのオゾン耐性は、芽胞菌と栄養細菌の中間にあるといわれていましたが、最近、栄養細菌が殺菌可能な低濃度オゾン水を用いてノロウイルスを不活性化することができるという報告があります。一家に一台オゾン水が設置されるような時代が、直ぐそこにあるかもしれません。
Q: オゾン水で手を洗うことでインフルエンザなどの予防が出来ますか?
A: もちろん出来ます。
オゾンは強い酸化力で細菌やインフルエンザウイルスの細胞を破壊することで殺菌/滅菌(ウイルスの場合は不活化)するので、抗生物質のように、耐性菌が出来ません。特にオゾン水は、オゾンガスとしての揮発が少ないので、肺からの吸入の心配が少なく、安全に消毒・殺菌に利用で出来ます。家に帰ったら、必ずオゾン水で、”うがいと手洗い”・・・・・顔もついでに洗って下さい。参考までに殺菌データを以下に添付しますので、興味のある方はご参照下さい。
表1 グラム陽性菌のオゾン水による殺菌効果
|
処 理 条 件 |
|
|||
細 菌 |
オゾン濃度 |
時間(min) |
pH |
温度(℃) |
Log10 |
---|---|---|---|---|---|
Bacillus megaterrium |
0.19 |
5 |
|
28 |
>2.0 |
Bacillus cereus |
0.12 |
5 |
|
28 |
>2.0 |
Leuconostoc mesenteroides |
0.3~3.8 |
0.5 |
5.9 |
25 |
1.3~7 |
Listeria monocytogenes |
0.2~3.8 |
0.5 |
5.9 |
25 |
0.7~7 |
Listeria monocytogenes |
0.1a |
10 |
7.2 |
25 |
60~70%b |
Mycobacterium fortuitum |
0.23~0.26 |
1.67 |
7 |
24 |
1 |
Stphyrococcus aureus |
0.3~1.97 |
10 |
|
|
4~6 |
Stphyrococcus aureus |
|
0.25 |
7 |
25 |
>.2.0 |
A:リン酸緩衝液 b:損傷細胞の%
表2 グラム陰性菌のオゾン水による殺菌効果
|
処 理 条 件 |
|
|||
細 菌 |
オゾン濃度 |
時間(min) |
pH |
温度(℃) |
Log10 |
---|---|---|---|---|---|
Escherichia coli |
0.065a |
0.5 |
|
|
3.5 |
Escherichia coli |
0.004~0.8b |
0.5~2.0 |
6.9 |
|
0.5~6.5 |
Escherichia coli |
0.19b |
5 |
|
28 |
>2.0 |
Escherichia coli |
0.23~0.26a |
1.67 |
7 |
24 |
4 |
Escherichia coli |
0.53b |
0.1 |
6.8 |
1 |
2 |
Escherichia coliO157:H7 |
0.3~1.0a |
<0.5 |
5.9 |
25 |
1.3~3.8 |
Legionellapneumophila |
0.32a |
20 |
7 |
24 |
>4.5 |
Legionellapneumophila |
0.47 |
20 |
7 |
24 |
>5.0 |
Legionellapneumophila |
0.21 |
5 |
|
|
>2.0 |
Salmonella enteritidis |
0.5~6.5 |
0.5 |
|
25 |
0.6~4 |
Salmonella typhimurium |
0.23~0.26a |
1.67 |
7 |
24 |
4.3 |
Pseudomonas fluorescens |
0.2~1.2a |
<0.5 |
5.9 |
25 |
0.9~5 |
A:オゾン非要求水 b:リン酸緩衝液
表3 ウイルスのオゾン水による不活化効果
|
処 理 条 件 |
|
|||
ウ イ ル ス |
オゾン濃度 |
時間(min) |
pH |
温度(℃) |
Log10 unitsでの減少 |
---|---|---|---|---|---|
Hepatitia A virus |
0.3~0.4b |
0.08 |
6~10 |
3~10 |
3.9 |
Hepatitia A virus |
0.25b |
0.02 |
7.2 |
20 |
2.7 |
Hepatitia A virus |
1.0b |
|
6~8 |
4 |
5 |
Poliomyelitis virus |
1~10a |
4 |
|
|
4 |
Poliovirus type1 |
0.6残留 |
5 |
|
|
4 |
Poliovirus type1 |
0.3残留 |
0.14 |
|
|
2 |
Poliovirus type1 |
0.5残留 |
0.5 |
|
|
2 |
Poliovirus type1(Mahoney) |
0.23~0.26a |
1.67 |
7 |
24 |
2.5~3.0 |
Poliovirus type3 |
0.6b |
0.3 |
6.9 |
22 |
1.63 |
Rotavirus human |
0.1~0.3b |
6 |
6.8 |
4 |
3 |
Rotavirus SA11 simian |
0.1~0.25b |
6~8 |
6.8 |
4 |
3 |
Rotavirus Wa human ATCC |
2.1~4.2 |
1 |
|
22 |
0~1.0 |
Rotavirus Wa human Wooster |
1.9~15.9 |
1 |
|
22 |
1.0~5.0 |
A:オゾン非要求水 b:リン酸緩衝液
Q: オゾンは目で見ることができますか?
A: 見えます。オゾンの色は、オゾンガスやオゾン水として消毒や脱臭に用いていてもなかなか見ることができませんが、二酸化炭素(ドライアイス)や窒素(液体窒素)などと同様、低温で凝縮させることにより目で見ることができます。 大気圧下においてオゾンは約-112℃(沸点)以下で液体となり、約-193℃(融点)以下で固体となります。 もっと日常的に得やすい温度で見るには、シリカゲルや多孔質ガラスなどにオゾンを吸着させる方法があります。右図は、温度0℃に冷やしたガラス容器内のシリカゲルに濃度約2万ppmのオゾンガスを通気した際の写真ですが、シリカゲルに吸着したオゾンの青い色が目視できます。
Q: オゾンはなぜ青色なのですか?
A: 「色がある」とは、可視域の範囲(波長360~830nm)で特定の波長の光を吸収し、その他の波長の光を反射もしくは透過するということです。可視光域においてオゾンは波長300~374nm(Huggins吸収帯)の光や波長450~850nm(Chappuis吸収帯)の光を良く吸収することが知られています。 この二つの吸収帯の隙間に当たる波長374~450nmの光がオゾンガスを透過して人の目に届きオゾンを青く映し出すのです。
Q: オゾンは細菌をどのように殺すのですか?
A: 細菌は一つの細胞からできていて、細胞表面は細胞膜で被われ、その内部には核や小胞体、ミトコンドリアなどの細胞内器官が含まれています。細胞膜には栄養素などの物質を選択的透過させる機能があり、細胞内器官のそれぞれはエネルギー産生や物質代謝、情報伝達など、細胞が生命活動を維持する上での必須な機能を担っています。オゾンは酸化力の極めて強い分子ですから、細胞がオゾンと接触すると、細胞膜や細胞内器官を構成する生体分子が酸化分解されます。そうすると、細胞膜や細胞内器官の機能は低下・消失し、細菌は生命活動できずに死に至ります。
Q: 細菌に対するオゾンの作用点はどこですか?
A: 上述したように、オゾンは極めて強い酸化剤ですから、ほとんどの有機分子はオゾンと接触すると酸化分解されます。細菌が相手の場合、以下のように、オゾンは最初に表面にある細胞膜と接し、最終的には核内のDNAまで酸化分解されます。つまり、オゾンの作用点とは、オゾンと接触するすべての機能性生体分子であり、オゾンとの反応でそれらの機能が低下・消失すると細菌は死に至ります。
1) 細胞膜の構成成分がオゾンによって酸化分解されると、細胞膜の損傷→膜透過性増大→細胞内成分の漏出と細胞外成分の流入と続き、その結果、細胞内外の生体分子の濃度バランスが大きく崩れます。たとえば細胞内のCa2+濃度は細胞外濃度の1/1000に保たれていますが、細胞膜透過性が増大するとCa2+が細胞内に流入し、タンパク質や核酸の分解酵素が活性化されて、細胞を構成しているタンパク質や核酸の分解が進みます。その結果、細胞は構造的破壊を受けます。
2)細胞膜透過性が増大してオゾンが細胞内部に到達すると、酵素をはじめとして、細胞内に存在するタンパク質やその他の生体機能分子とオゾンが反応し、細菌の生命維持に必要なエネルギー産生や代謝が阻害されます。
3) オゾンが核内に到達するとDNAの酸化分解も起こります。
【参考文献:日本医療・環境オゾン研究会(2007)環境分野におけるオゾン利用の実際、神力就子、5.オゾン殺菌・消毒、p54-61.参考】
Q: オゾンのウイルスへの作用点はどこですか?
A: ウイルスはDNAあるいはRNAとこれを包む外被タンパク質のみから成り、生きている細胞(宿主細胞)に侵入することによって、そのエネルギー産生系やタンパク質合成系を借りて増殖することができます。したがって、宿主細胞への侵入を阻害されるとウイルスは増殖できず、DNAやRNAが分解されるとウイルスは死滅します。オゾンがウイルスと接触すると、
1) コートタンパク質が酸化分解されますが、このタンパク質の中には宿主細胞表面への吸着に関与しているものがあり、それが破壊されると、ウイルスは宿主細胞に侵入できなくなります。
2) オゾンによってウイルスの本体でもあるDNAやRNAが酸化損傷されるとウイルスは不活性化され、その増殖が停止します。
【参考文献:日本医療・環境オゾン研究会(2007)環境分野におけるオゾン利用の実際、神力就子、5.オゾン殺菌・消毒、p54-61.参考】
Q: オゾンの原虫への作用点はどこですか?
A: 原虫は核および細胞質とそれらを被う細胞膜、さらにそれを被う多糖の細胞外被から構成されています。オゾンによる原虫の不活性化機構における作用点としは以下の点を挙げることができます。
1) オゾンによる細胞膜の破壊により細胞内成分が細胞から漏洩する。
2) オゾンとの反応で核酸が変性すると、核酸の複製やタンパク質の合成が不可能となる。
3) 核酸自体のみならず、核酸合成に関与する酵素や他の機能性成分がオゾンによって酸化損傷を受けるとDNAの生合成が阻害される。
オゾンがこれら作用点に作用すると原虫は生命を維持できなくなり死滅します。
【参考文献:日本医療・環境オゾン研究会(2007)環境分野におけるオゾン利用の実際、神力就子、5.オゾン殺菌・消毒、p54-61.参考】
Q: オゾンは細菌中のどんな成分とどのような反応をするのでしょうか?
A: 細菌を構成する代表的な成分は遺伝情報を担う核酸、細胞膜を構成する脂質、細胞膜や細胞質内でエネルギー産生や代謝に関与しているタンパク質です。その他に細胞機能に重要な役割をしている成分も
ありますが、ここでは上記3種の成分とオゾンの反応について紹介します。
1) 核酸は塩基、糖、リン酸からなるヌクレオチドという構成単位からなりたっています。オゾンから生成するOHラジカルが核酸と反応すると、糖と核酸塩基を結合しているN-グリコシド結合が切断されます。その結果、細菌は増殖・生存が不可能となり死滅します。
2) 一口にタンパク質といっても、細菌は物質輸送を担うトランスポーター、情報伝達に関与するホルモンや受容体、代謝を担う酵素など多彩です。これらのタンパク質を構成するアミノ酸残基の中で、システイン残基(SH基)やトリプトファン残基はオゾンと高い反応性を示しますので、活性中心にSH基あるいはトリプトファン残基などを有するタンパク質はオゾンと反応すると、その機能が失われ、細菌は死滅します。
3) 細胞膜を構成するリン脂質にはその構成単位として不飽和脂肪酸が含まれています。不飽和脂肪酸のC-C二重結合はオゾンとの反応性が非常に高く、非極性溶媒中の反応ではオゾニドが、水系溶媒中では過酸化物が生成します。また、オゾンと不飽和脂肪酸との反応ではフリーラジカルが生成する場合もあり、これが生成すると、不飽和脂肪酸の連鎖的な自動酸化あるいは脂質過酸化が進行します。細胞膜で脂質過酸化反応が進行すると、その選択的透過機能は低下・消失し、細菌は死に至ります。
【参考文献:日本医療・環境オゾン研究会(2007)環境分野におけるオゾン利用の実際、神力就子、5.オゾン殺菌・消毒、p54-61.参考】